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「完璧な妻Cさん」 観光客逸話   



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名前:    Cさん(女性)
年齢:    60代
渡航目的: 観光
NY歴:    不明




Cさんと初めて会った時、

私の母くらいの年代の方だったので、

うちのような形式の場所でも大丈夫かなと少し不安になりました。





でもCさんと実際話をしてみると、

とても元気で溌剌としていて、

年齢の差を感じさせない方で安心しました。





考えてみたらホテルではなく、

うちみたな所に泊まってみようと思った方ですから、

日本にいる普通の60代の主婦の方と違うのは当たり前です。





行動力もある方で、

今までいろんな国を旅行されたようでした。





彼女が旅先で経験したいろんな面白い話を1時間くらい聞いた後、

家賃の話になり、





「現金をたくさん持ってくるのは何かあった時に怖いので、

 現地に着いてからこっちの銀行のATMで下ろそうと思ってたんですよ。

 そんな訳で今日はもう遅いので、

 明日銀行でお金を下ろしてから家賃を払ってもよろしいでしょうか?」





とCさんが言いました。





確かに現金を大量に持ち歩くのは危険なので、

必要な金額を必要に応じてこっちの銀行で下ろしたほうが安心です。





ただ普通常識のある人なら、

家賃だけはすぐに支払えるようにそれとは別に用意して持ってきます。





それまでの経験から一瞬一抹の不安を感じましたが、

Cさんはとてもしっかりされている方だったので、

何も問題はないだろうとすぐにその不安を打ち消しました。





ただ銀行はアパートを出てすぐの所にあるので、



「家賃は明日でも構いませんが、銀行ならここを出てすぐ隣にありますよ」



と言うと、さすが行動力のあるCさんは、



「それでは今すぐ行ってきます!」



と笑顔ですぐに銀行に向かいました。





その20分後、

家を出た時の明るさとは対照的な暗い顔でCさんは戻ってきました。





「どうしてだかわからないんですが、

 何度もお金を出そうと頑張ってみたんですが、ぜんぜん駄目だったんです…」



「え? そうなんですか? でもよくあることなんですよ。

 多分やり方が間違っているだけだと思うので私も一緒に行きますよ」



と言って二人で銀行に向かいました。





実際今までも同じようにお金を出せなかった人たちがいましたが、

単に英語の読み間違えというケースがほとんどでした。





今回もそうなんだろうと思っていたら、

Cさんの場合何度やってみてもエラーメッセージが出るだけでお金が下ろせません。



「このパスワードのはずなのに。 おかしい。 おかしい」



とCさんは顔面蒼白になりながら焦っていました。





アパートに戻った後、Cさんは突然思い出したようで、



「そういえば今回このカードを作って仮のパスワードが送られてきた時、

 自分ではすっかりいつも使ってるパスワードに切り替えたとばかり思ってましたが、

 切り替え忘れたのかもしれません…」



「あー、それでパスワードが通らなかったんですね。

 その仮のパスワードが書いてある手紙の置き場所って覚えてますか?」



「はい。 いつもの場所に入れたので覚えてます」



「それじゃ、ご主人に電話してパスワードを聞けば問題ないですね! 良かったですわー」



「……」



「……」



「ご主人家にいらっしゃるんですよね?」



「いますけど……」



「…何か問題でも?」





「主人には…」





「主人には…」







「私がこんなミスを犯したなんて
 口が裂けても絶対言えません!!!」





「え???」




「この40年間、私は一度も主人の前で
 ミスを犯した事がないんです!!!」





「ミスって言ってもただパスワードの番号聞くだけじゃないですか…?」




「私にとっては大きなミスです!!!
 こんなことで長年積み上げてきた
 主人の私への信頼を崩したくないんです!!!」






「はぁ……」



「でもそれってちょっと…」



「絶対無理です!!!」



「でも、電話して何気なくうまくパスワードを聞きだす事ができないですか?」



「どういう聞き方しても私がミスをしたと気づかれてしまいます!」



「……でも家賃は事前にお伝えしたように前払いしてもらわないと私も困るんで…」



「家賃は何とかします!

 今持ってる現金を集めたら多分それくらいにはなると思います」







銀行に行く前までの明るく快活だったCさんは消えうせ、

小さく萎んでしまった彼女はうろたえながら財布を開き、

中に入っていた現金を全部出して数え始めました。





その変化はあまりにも異様で、

私の彼女に対する不信感が広がっていきました。





そんな事で崩れる信頼関係って何??

たった一つの小さなミスも許されない夫婦関係って?

そこまでして保つプライドって一体何?

本当に40年間もの間、こんな小さなミスさえした事ないの?

それとも彼女何か裏がある?





必死でお金を数えているCさんを呆然と眺めていると、



「ちょうどありました!」



と言って私にお金を差し出しました。





チラッと残金をみてみると7ドルしかありません。

あまりの少なさにさすがに気の毒にも感じて、



「あの… 私個人的には家賃をいただいたらそれで構わないんですが、

 たった7ドルでここにいる間どうやって過ごすつもりなんですか?」



「月曜日にはこのカード会社のオフィスが開くので、オフィスに行ったら何とかなると思います」



「でも今日は土曜日ですよ。

 あさってオフィスに行くまでどうするつもりなんですか?

 それにオフィスに行っても問題が解消しない可能性もあるわけですし。

 やっぱりここはご主人に電話したほうがいいですよ」



「いえ、主人には絶対言えません」



「でも… せっかくニューヨークまで来てるのに、

 7ドルじゃ何もできないじゃないですか?

 たった5泊しかいないのに…」



「何とかします! 貧乏旅行には慣れてるんです。

 それに食べ物もいくつか持ってきてますし」




「そうですか…

 本来なら私がお金を貸してあげたらいいんでしょうが、

 Cさんとは今日会ったばかりでまだよくわからないし…

 私は元々お金は戻って来なくてもいいって思った時にしか貸さない主義なんで…」



「もちろん、それはそうですよ。 そんなの気になさらないで下さい」





気になさらないで下さいとは言われても、

同じ屋根の下でお金が無くてどこにも行けず、

食べる物にも困るであろう彼女と過ごす日々を思うと気が重くなりました。





「あ、そうだ。 ご主人じゃなくても、

 どなたかに頼んで私の日本の口座にお金を振り込んで貰うっていのはどうですか?

 日本の口座だったらすぐ振り込めるでしょうし、

 金額がクリアになってなくても、

 振り込んだっていう証明があった時点でその金額分のドルをCさんにお渡ししますよ」



「そうですねぇ。 でも頼める人が今思いつかないし、

 何とかしますので大丈夫ですよ」





せっかく良い案が見つかったと思ったのに、

これ以上私には何もできないと思い、

ただ傍観することに決めました。





次の日、Cさんは同時期に泊まっていた20歳の女の子と一緒に観光に出かけました。

お金が無いのに大丈夫なんだろうかとは思いましたが、

そこまで干渉する権利はないので口は挟みませんでした。





夕方になって二人は戻ってきました。





Cさんは良い気晴らしになったのか、

初めて会った時の明るい調子に戻っていました。





一応気になったので、

一緒に出かけた女の子と二人きりになった時にさりげなく聞いてみると、

私の不安は的中して彼女はCさんに20ドル貸したと言いました。





その女の子もお金に余裕がある訳ではなく、

切り詰めた旅行をしているのを知っていたし、

第一昨日知り合ったばかりの若い子にお金を借りるなんて、

そっちのほうがだんなさんにパスワードを聞くよりずっと信頼崩す行為やん!!

とCさんに対してさらに不信感が募りました。





その女の子には、



「もし最終的にお金が返ってこなかったら絶対私に言ってね。

 彼女の日本の連絡先は知ってるのでお金は取り戻してあげるから」





と言いました。

Cさんに対して不信感が増していた私は、

このまま彼女にお金を返さないで帰ってしまう可能性もあるんじゃないかと思いました。





そして月曜日になり、

ちゃんとお金を下ろして来るかなぁと不安に思っていると、

Cさんは嬉しそうな顔をして戻ってきました。





開口一番、



「無事お金が下ろせました!」



と明るく報告するCさんにまったく邪気はありませんでした。





彼女のその笑顔を見ていると、

問題は本当にパスワードだけだったんだということがわかりました。





私にとってたった一つの小さなミスも許されない夫婦関係というものが信じられなくて、

Cさんには何か裏があるんじゃないかと勝手に疑っていました。





どうしてそこまでしてご主人に自分のミスがばれるのが嫌だったのか、

私には理解しがたい不思議な夫婦関係でした。





取り合えずお金も無事女の子に返して貰う事ができ、

Cさんは5泊の旅を終え日本に戻っていきました。





それにしてもCさん、余計なお世話ですが、




(周りが迷惑なんで…)

一度夫婦関係見直してみたらどうですか? 



 



観光客逸話 「完璧な妻Cさん」 終わり。



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by ukainounyc | 2008-11-22 05:11

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